EXTRA:特集企画

<制作スタッフ インタビュー>

第3回 クレギオン初代グランドマスター・大宮亮氏が語る誕生秘話

PBM版の第1作目となる『クレギオン#1 遙かなるアーケイディア』(以下、『#1』の立ち上げに参加し、グランドマスターを担当した大宮亮氏。彼が『♯1』で何を実現しようと考えていたのか、日本初のPBM『ネットゲーム’88』の解説と分析から当時の状況を織り交ぜつつ、『#1』の立ち上げに至る経緯を詳しく語ってくれた。

――まずはPBWやオンラインゲームとPBMの違いについてあらためて教えてください。
 

大宮 日本におけるPBMは、現行のPBWやオンラインゲームとはかなり趣が異なっています。1988年に遊演体という会社が企画運営した『ネットゲーム’88』(以下N88)に端を発するもので、郵便を使って文章をやりとりして遊ぶのが主流でした。プレイヤーと運営(ゲームマスター)とのやりとりは月1回のペースで、ゲームは1年間続きます。参加者は最盛期ですと数千人から1万人に及ぶ作品もありました。



――PBMはかつて「郵便を使って遊ぶテーブルトークRPG(以下、TRPG)」と紹介されていましたが、当時PBMを運営されていた大宮さんから見て、この表現はいかがですか?


大宮 当時からそう紹介されていましたね。PBMの場合、ゲームマスターは「舞台設定と今の状況」を説明する文章をプレイヤーに送ります。プレイヤーは自分のキャラクターを作り「何を考えてどう行動するか」を説明する文章(以下アクション)をマスターに送ります。マスターはプレイヤキャラクターの意志や行動を読んで「変化した状況」を説明する文章(以下リアクション)をプレイヤーに送るというのが、PBMの一連の流れですね。
TRPGとの違いは対面(会話)ではなく郵便(文章)を介してプレイするということです。マスター一人当たりが担当するプレイヤー数が数十人から数百人と多いのもTRPGと大きく異なるところですね。



――先ほどお話に登場した日本初のPBM『ネットゲーム’88』とはどんなゲームだったのでしょうか?


大宮 『N88』は現代日本を舞台に、神話時代に封印された怪物が蘇ってきたという設定で運営されたゲームですね。当然、『N88』も郵便を使ってプレイするTRPGだと解釈されがちなのですが、実は違います。ホテルなどの会場に実際にプレイヤーが集まってプレイするライブゲームを、郵便を使ってプレイしてもらおうというのが『N88』でした。
ライブゲームがどんなものかイメージしづらいという方は、今流行りのマーダーミステリーをイメージしていだたけると雰囲気を理解してもらえると思います。
プレイヤーは自らがキャラクターになって、マスターから配布された情報をもとに、マスターが用意した謎を解いて行く……。これが『N88]の醍醐味でした。
あるプレイヤーが謎を解くための正しい行動をすると、用意されていたイベントが発生し、そのプレイヤーには謎を解くための手掛かりが与えられます。これが繰り返されて行くことにより、ゲーム全体に張り巡らされた謎が解かれて、ゲームは終了となります。



――今のPBWとはだいぶ違っていますね。「郵便を使って遊ぶTRPG」というニュアンスとも異なる気がします。


大宮 そうですね。『N88』は、実際のところ郵便を使ってプレイするライブゲームでしたが、プレイヤーは郵便を使ってプレイするTRPGだと解釈したため、大きな問題が発生しました。ハズレの行動をしたプレイヤーは、自分が受け取るリアクションに自分のキャラクターが出てこないのです。
郵便版とはいえTRPGなら、リアクションに自分のキャラクターが出てくるのは当然のはずです。しかし、郵便版のライブゲームであるなら、正しい行動をしたプレイヤーに対してのみ、イベントの発生と手掛かりの入手というリアクションが送られてくるのは当然なのです。ハズレた行動からは何も発生しないわけですから。



――「郵便を使って遊ぶTRPG」と考えていたプレイヤーからすると辛いものがありますね。


大宮 『N88』の場合、マスター側はゲーム開始前から「これはライブゲームだ」と説明していたのですが……。プレイヤーが得られた手掛かりを共有して、みんなで謎を解けば、楽しい郵便版ライブゲームが体験できたはずなのです。
ところが、『N88』ではプレイヤーはふたつのサイド「人間側」と「怪物側」を選択できました。
怪物側とは封印を破って神話的怪物を蘇らせようとする側のキャラクターであって、レベルアップすると異形の怪物に変身します。人間側は封印を守り、神話的怪物が蘇るのを阻止する側です。
これが『N88』が『N88』である所以であり、『N88』が郵便版TRPGだとプレイヤーに誤解させた原因でもあります。
善と悪の対立構造。
本来、プレイヤー全員で共有されるべき正しい情報は敵を出し抜くために秘匿されました。
誰が敵なのかわからないので、同じサイドのプレイヤーであっても、信用できない者には情報が秘匿されるわけです。
敵を欺くために偽の情報もばらまかれました。偽の情報が巡り巡って、自分のところに戻ってきて「これは本当の事なのか」と錯綜もしました。この状況を楽しめたプレイヤーは混沌たるゲームに魅入られてしまい、自分のキャラクターに没入して行きます。
ただ、実際はゲームが始まってしばらく経つのに、いったい今何がどうなっているのかわからない。そんなプレイヤーが大半でしたね。
でも、漏れ伝わる話では「大変な事が起こっているらしい」と。リアクションには自分のキャラクターは出てこないし、何が起こっているのかもわからない。仕方がないので、プレイヤーは実際に交流できるプレイヤーと情報の交換を始めるわけです。そのうち、情報を収集したプレイヤーがそれらをまとめた情報誌が作り始めます。情報誌と情報誌の交流も始まりました。必然的に交流や情報誌で、各プレイヤーは「これまで何をしたか、今何をしようとしているか」という自分のキャラクターの話を語り始めました。結果的に、わけのわからない情報より、面白いキャラクターの話の方が人気となりました。
情報誌は自分のキャラクターのことを語る個人誌に変容して、数多くの個人誌が交換流通されるようになったのです。



――プレイヤーが楽しみ方を自分で見つけていったという感じですね。


大宮 そうなりますね。楽しめた人もいれば楽しめなかった人もいたとは思いますが、なんだかんだで『N88』は混沌の中、終了しました。一体何がどうなったのか。その一端がわかったのは、ゲーム終了後に発行された最終リアクションがプレイヤーの手元に届いてからでした。
『N88』をプレイしたプレイヤーたちの感想や要望などを取り入れることで、『N88』から後のPBMは郵便を使ってプレイするTRPGになりました。
プレイヤー数が千人単位なので、毎回のリアクションに自分のキャラクターが登場することは難しいけど、少なくとも名簿には名前があるし、今何が起こっているかわかるし、次に何をすればいいのかもわかるし、次は自分のキャラクターが活躍するかもしれない。
そんなゲームになりました。多くのプレイヤーが、そんなゲームを望んでいたのも事実です。



――『N88』以降のPBMについて大宮さんは当時、どう思われていたのでしょうか?


大宮 私は「自分のキャラクターがリアクションに登場するのは当たり前のPBMに未来はない」と危惧しました。これを是とするマスターとプレイヤーが最終的にたどり着くのは「1プレイヤー1リアクション」の「プレイヤーが書いた文章」を「多少アレンジして作る文章」にして返す、個人小説作成ゲームです。
これはPBM……あえて当時の言葉で言いますと「ネットゲーム」ではないと思いました。N88がネットゲームであった所以はプレイヤー同士の交流が盛んであったことです。
止むに止まれぬ理由(リアクションには自分のキャラクターは出てこないし何が起こっているのかもわからない)があったにせよ、プレイヤーは自ら交流を始めました。
プレイヤーはお互いに自分のキャラクターが「これまで何をしたか、今何をしようとしているか」を語り合いました。これがネットゲームというものだと私は考えていました。
私が『N88』に見いだしたネットゲームの面白さとは「自分の物語を誰かに話し、他の人の物語に興味を持つ」ことなのです。



――確かに後期のPBMや今のPBWはともすると個人小説作成ゲームになりがちかもしれませんね。


大宮 そういうニーズがあるのかもしれませんが、当時、その考えには否定的でした。私はあらゆるゲームに共通する、プレイヤーが感じる面白さとは、プレイヤーの脳内に生成される物語にあると思っています。ネットゲームとはその「物語」をプレイヤー同士でお互いに交換しあうゲームだと思います。
『N88』はこのネットゲームの面白さを粗削りながらも示してくれました。
ですが、『N88』にはゲームとして「リアクションには自分のキャラクターは出てこないし何が起こっているのかもわからない」という根本的な問題があります。
だからといって「自分のキャラクターがリアクションに登場するのは当たり前」というゲームではネットゲームにはならないとも考えました。



――大宮さんのネットゲームへの想いが『クレギオン』へとつながっていくわけですね。具体的にはどのようなゲームを目指されていたのでしょうか?


大宮 当時、考えていたことを順を追って説明させていだたくと、まず「ひとつの世界にひとつの物語」という要素は外せないと考えていました。物語を交換するには共通の土台がないとダメです。次に「ひとつの謎とひとつの解」です。プレイヤーの興味をひくには謎が必要ですし、謎は解けなければなりません。ここまでは『N88』と同じです。
次は『N88』の問題点について考えてみました。
『N88』の問題点は「リアクションに自分のキャラクターが出てこない」ことと「何が起こっているのかわからない」ことです。
プレイヤーが千人単位のネットゲームで「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」をやろうとすると、この問題点は避けようがありません。
しかも、困ったことに、この問題点こそがプレイヤーの交流を生み出す要因でもありました。
そこで「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」を分割しようと考えました。正確に言うと分割というよりは、これを幹として、いくつかの枝を生やすというイメージです。
共通の土台を持つ複数のサブストーリー(ブランチ=枝)を用意するわけですね。
ブランチが10本あれば、プレイヤーは百人単位になります。
プレイヤーが百人単位になれば「リアクションに自分のキャラクターが出てこない」、「何が起こっているのかわからない」という問題は軽減できます。



――『♯1』以降、『クレギオン』を運営していたホビー・データはもちろん、ほぼすべてのPBMでブランチシステムが採用されることになりましたね。


大宮 そうですね。元々、ブランチシステムは、個々のプレイヤーでは手が届きそうにない「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」をより身近にわかりやすくするものとして生まれたわけです。
ブランチには、それぞれの物語と謎が用意されています。プレイヤーはそこでゲームに参加します。ブランチのそれぞれの物語はブランチの中で完結しますが、ブランチのそれぞれの物語は幹となる「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」の部分でもあるのです。
ブランチのそれぞれの物語の根っこには「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」があります。
プレイヤーは望むなら、ブランチの幹にある物語に入ることができるわけです。
ある時、プレイヤーはブランチの中で「我々の世界に何かが起こっている」という大きな謎の存在を知ります。その大きな謎を解くためには、プレイヤーはブランチを超えて交流しなければならない。これが私が思うブランチ制ネットゲームです。



――そんなブランチシステムを初めて本格的に採用したゲームが『♯1』でしたが、大宮さんはどのような想いでこの企画に参加されたのでしょうか?


大宮 「自分のキャラクターがリアクションに登場するのは当たり前」ではなく、「プレイヤー同士が交流するのが当たり前」だと、マスターにもプレイヤーにも理解してもらえるなら、『N88』に匹敵するネットゲームができるのではないだろうか……。
そう考えていた時、『#1』の企画がもちあがりました。もちろん、私はこの企画に飛びつきました。
「ひとつの世界」これは既に構築されていました。使えるギミックもグッズもネタも豊富にありました。それなら「ひとつの物語とひとつの謎」を作ろうと思い、物語を作って行くことにしました。



――具体的にはどんな物語を作られたのでしょうか?


大宮 『クレギオン』の設定そのものは、このインタビューを掲載していただいている公式サイトをご覧いただくとしまして……。

舞台は中央世界「近地球圏」から遠い辺境宙域「アレイダ」。
かつて、近地球圏で大きな戦争があった。
即時通信システム「インテック」を統括するAI「SOL」は人類との戦いに敗れ、アレイダまで逃げのびて休眠する。
SOLの復活を望む科学者が人類の統合を目指すミュータント「共感者」と出会い、SOLを再起動させる。人の精神を自在に操れる共感者が宇宙を即時通信で統括できるSOLの力を手に入れた時、人類の進化しようという意識の集合体「導く者」が再び(前回は古代パプテスマ人が「小さな神」を作った時)現れ、人々に警告する。
警告を受け止めた人々は立ち上がり、一致団結してSOLを打ち破り、小さな神の支援を得て共感者を倒す。

というのが『#1』の物語です。



――実際に、『♯1』を運営するにあたって大宮さんはどんなことを考えていたのでしょうか?


大宮 先ほど紹介した「ひとつの世界にひとつの物語」、「ひとつの謎とひとつの解」を幹=共通の土台として、各マスターにブランチシナリオを作ってもらいました。
続いてできあがったブランチシナリオが相互に競合しないように、幹シナリオと矛盾しないように調整をかけたところで、ゲームのスタートとなりました。
ゲームが始まってからも調整は続きます。
ネットゲームの宿命として、当然、プレイヤーの行動でシナリオが変更されるという事態が多発します。
その都度、他のブランチシナリオと競合しないか、幹シナリオと矛盾しないか、延々と調整を繰り返しました。
ネットゲームにおいては文字通り「予定は未定」です。
ゲーム開始前に調整してあったブランチシナリオはのっけから予定とは違う方向に突っ走り、これだけは変えてはいけないよという幹シナリオの基本設定も事後修正不可能な状態に豹変し、調整は困難を極めました。
というより、ゲーム全体を瓦解させないようになんとか取り繕ったといった方が正しいかもしれません。



――手探りの中、大宮さんたち当時のスタッフが思いを込めて運営されていたのですね。あれから30年経った今、新作がスタートしますが、最後に新作をプレイしようと考えているみなさんにメッセージをお願いします。


大宮 今回は私が『#1』に込めた思いや当時の状況を中心にお話させていただきました。『#1』には想い入れがありますし、忘れられない作品でもあります。
同時に、苦い痛みと諦めに似た喪失感から決して逃れられない作品でもあります。
そんな『クレギオン』が30年の時を超えて、また新たなスタートを切ることに、大きな喜びを感じます。
新作に参加されるプレイヤーのみなさん、そして新作を作り上げていくマスターや運営スタッフのみなさんに謹んでエールを送りたいと思います。



INTERVIEW / TEXT:斎藤ゆうすけ