EXTRA:特集企画

<制作スタッフ インタビュー>

第6回 『新クレギオン』成立の過程とPBWの未来(雑賀寛氏&月島総記氏対談)

本インタビュー企画の締めとして、30年前にPBM版の第1作目『クレギオン#1 遙かなるアーケイディア』(以下、『#1』)を立ち上げ、『新クレギオン』でもプロデューサーを担当している雑賀寛氏と、企画・原案の月島総記氏による対談をお送りする。30周年に寄せる想いから。PBMやPBWの魅力、『新クレギオン』立ち上げの経緯に、PBWの未来像まで雑賀・月島両氏が熱い想いを語ってくれた。

――2020年で『クレギオン』は、誕生から30周年を迎えることになりましたが、まずは雑賀さんの率直な感想をお聞かせください。


雑賀 1990年にホビー・データという会社を立ち上げて、『#1』の運営を始めた当時は、30年もの長きに渡って、みなさんから支持していたただける作品になるとは思ってもいませんでした。

90年当時は、遊演体が日本初のPBMである『ネットゲーム’88』に続き、2作目となる『ネットゲーム90 蓬莱学園の冒険!』の運営をスタートさせた時期で、結果的に名実ともに『蓬莱学園』と『クレギオン』がPBMを盛り上げ、遊遊体とホビー・データの二社が切磋琢磨しながら、PBM業界を牽引してきたという自負もあります。

もちろん、作品そのものの魅力や、前述の二社が試行錯誤をしながら運営を行ってきた結果として、PBMが一定の盛り上がりを見せたことは事実ですが、やはり一番は、作品やPBMそのものを愛してくれたプレイヤーのみなさんのおかげだと思っております。


月島 私は以前のインタビューでもお話させていただきましたように、雑賀さんと出会うまで、PBMやPBWについては詳しく存じ上げておりませんでした。今回、『新クレギオン』で企画と原案を担当させていただくにあたり、これだけ長い間、多くのプレイヤーさんから支持され続けている作品の"重み"を感じています。

それと同時に、以前担当させていただきました『クロストライブ』(注1)を通して、PBMやPBWが持つ、可能性や魅力についても体感していますので、より多くの人に『新クレギオン』をプレイしていただき、PBWの魅力を味わって欲しいとも思っています。



――月島さんには一度お話をうかがっておりますが、あらためてお二人が思う「PBW(PBM)の魅力」にいてお聞かせください。


雑賀 やはり没入感でしょうね。多くの参加者が架空の世界で知り合い、時には競い合い、時には協力し合いながら、その世界での人生を歩んで行く……。しかも、その世界は、多くの参加者の行動により、ライブで変化していくわけです。

テーブルトークRPG(以下、TRPG)も同様の魅力を持ったホビーではありますが、例えキャンペーンシナリオを遊んでいたとしても、一回のセッションが終われば、没入感はそこで途切れてしまいます。

しかし、PBMやPBWの世界は、その作品の運営が続く限り、途切れることなく続いていきます。

リアクションを待つ間も、他のプレイヤーと交流したり、自分のキャラクターに次はどんな行動をさせようかと想像し続けることができます。

郵便を使って月1回のペースでアクションとリアクションをやりとりしていたPBMから、月に何回もアクションとリアクションのやりとりができるPBWに進化したことで、よりライブ感のあるホビーとなっておりますので、没入感も増していると思います。


月島 私も雑賀さんと同様の魅力を感じています。PBWは、現実とは別のもう一つの世界が確かにそこにあって、そこでもう一つの人生が楽しめるというのが大きな魅力だと思います。そして、それは究極的には自由であるというところも大きな魅力ですね。

複数の参加者が自由に行動することで、予想外の展開が起きるのが面白いんですよね。

私もTRPGは大好きで、会話をベースに自由に物語を作っていけるところに魅力を感じていますが、TRPGは良くも悪くもセッションに参加した人たちだけの世界です。

オンラインで遊ぶMMORPGも魅力的ですが、こちらは多くの参加者と一緒に遊ぶことができ、交流することもできますが、ストーリーを自由に紡ぐことはできません。

TRPGのようにどこまでも自由にストーリーを紡ぐことができ、MMORPGのように多くのプレイヤーが参加できるのがPBWの良いところですよね。



――こちらも月島さんに一度お話をうかがった話題ですが、30周年を迎える2020年に『新クレギオン』をスタートさせることになった経緯をあらためて雑賀さんからお聞かせください。


雑賀 すでに月島さんがお話されているように、元々『クレギオン』という作品を活用して何かをやろうという準備はしていました。


月島 『クロストライブ』の運営が終わってすぐのことなので、6年ほど前から準備はしていましたね。


雑賀 『クロストライブ』で月島さんとご一緒させていただき、ストーリーテリングの緻密さ、発想の豊かさに心を打たれ、ぜひ引き続きご一緒したいと思ったのが、準備をはじめたきっかけです。


月島 ありがとうございます。私も雑賀さんとお話させていただき、私自身も雑賀さんが好きなSF作品が好きだったこともあり、『クロストライブ』終了後もぜひご一緒したいと思っておりました。


雑賀 これまで多くのSF作家さんと交流させていただいておりますが、月島さんとはSFに関する思想やスタンスがかなり近かったこともあり、「SFでアニメやゲーム、小説やコミックなど、いろいろな展開ができる作品を一緒に作りませんか?」とお声がけさせていだたきました。


月島 雑賀さんから『クレギオン』という作品の世界観や設定を聞かせていただき、大きな魅力を感じましたので、「こちらこそ、ぜひ!」ということでお受けさせていただいた次第です。


雑賀 最初は、PBWを前提とせずに『クレギオン』の世界を活用したなんらかの作品をリリースしようと思っていたのですが、『クロストライブ』を運営していた当時から、オンラインセッションの確立や、リプレイ動画の台頭により、TRPGが新たなブームを迎えていたことや、チャットやネットの掲示板を使った人狼ゲームが流行するようになっていたことで、新しい形の参加型ゲームの可能性についても検討していました。実際、『クロストライブ』は、PBWの新しい形として、モバイル端末でのプレイを前提に、ノベルタイプのリアクションにこだわらず、ビジュアルノベル形式のリアクションを採用したことで、ひとつの可能性を提示することに成功したと思っています。


月島 様々な可能性を検討しながら、準備を進めていく中で、『クレギオン』の生誕30周年が近づいてきて、30年の節目を迎えるのだから、原点回帰的な意味もこめて、まずはPBWとして『新クレギオン』を始めようということになったんですよね。


雑賀 そうですね。具体的には、2019年の10月に元々、私が立ち上げたフロンティアワークスのクリエイティブRPG(注2)チームから声がかかって、新作の制作が決まり、その過程で「2020年は30周年でもありますし、『クレギオン』をやりましょう」という話になった次第です。



――今回、『新クレギオン』のスタートにあわせて、こちらの公式サイトで『♯1』のグランドマスターを担当された大宮亮さんや、『クレギオン』を長年プレイされているクレメントさんへのインタビューも担当させていだたきましたが、『クレギオン』の魅力のひとつとして、クレメントさんは「地に足のついた未来図」という表現をされていました。こちらについてはいかがでしょうか?


雑賀 そうですね。確かに『クレギオン』にはそういった魅力があると思います。『クレギオン』は他のPBMと比べて、プレイヤー同士が競い合う展開も多かったのですが、現実の世界における人と人との関係がそうであるように、競い合うこともあれば、協力し合うこともあり、状況や場面によって、事態に直面した人間がどんな行動をとるかわかりませんよね? 多くの参加者が『クレギオン』の世界で、リアリティを持って活動することで生まれる意外性は、『クレギオン』ならでは魅力だと思います。

10人、20人が同じリアクション内で行動した結果、いろいろなことが起きて、結果、あるプレイヤーは大いに喜び、あるプレイヤーは悔しがるかもしれません。そのことが、クレメントさんが仰る「地に足のついた未来図」という表現に繋がっているのではないでしょうか。



――リアリティを重視した『クレギオン』ですが、シリーズを重ねるごとに、"番長"や"カエル"といったようなコミカルな設定も登場しましたが、そのことについてはいかがでしょうか?


雑賀 シリーズを重ねる中で、私は現場で直接指揮をとる立場から、スタッフを育てる立場へと、立場が変わっていきました。"番長"や"カエル"といったコミカルな設定が登場した5作目や6作目に関しては、若いクリエイターを育てる意図もあって、彼らの提案は基本的に許可するようにしていました。元々、『クレギオン』の世界は、あらゆる設定を内包できるように自由度の高いものとして創造していましたので、若いクリエイターの成長に繋がるなら、彼らの意見は尊重すべきだと考えておりました。

結果的に若いクリエイターたちが自立して、ライトノベル作家やシナリオライターとして活躍するようになったので、当時の方針そのものは間違っていないと思っております。

しかし、一方でそういったコミカルな設定をあまり好意的に捉えていないプレイヤーさんがいらっしゃったのも事実です。


月島 私も『クレギオン』が持つ懐の深さに共感していますが、基本的な考え方はクレメントさんや大宮さんに近いと思います。そういう意味では、今回の『新クレギオン』は『♯1』に近い作品になっていると思います。もちろん、久潟マスターがインタビューで答えられているようにコミカルなストーリーも展開されると思いますが、ベースはリアリティのある世界になっているということです。



――気が早いお話で恐縮ですが『新クレギオン』の"その先"について、お二人はどうお考えでしょうか?


雑賀 ありがたいことに『新クレギオン』の事前シナリオが大変な人気を博しておりまして、参加できなかったみなさまにはご迷惑をおかけいたしましたが、あらためて『クレギオン』という作品やPBWというホビーそのものが持つ魅力について自信を持つことができました。

まずはPBWをこのまま発展・改善していく活動を行っていきたいと思います。

その上で、PBWをより発展させたものとして、誰でも気軽に参加できる新しいスタイルの参加型ゲームを提供できるように、月島さんとともにアイデアを練っております。


月島 そもそもPBMやPBWは、基本的な設定が構築された一つの世界を舞台に様々なキャラクターが登場し、ストーリーも同時に進行していくシェアードワールドそのものだと思っています。

雑賀さんがお話された参加型ゲームを中心にアニメ、小説、コミック、別の形でのゲームなど、あらゆるメディアで同時並行的に進行していく作品をリリースしたいと考えています。


雑賀 『クレギオン』や『蓬莱学園』は、PBMから小説やTRPGになったりと、シェアドワールド作品として、一定の成功を収めましたが、PBMの参加者だけで見れば、当時は数千人から多くても一万人程度が限界でした。

一万人で限界が来てしまった要因の一つは、郵便による月に一回のやりとりだったり、プレイヤー同士の交流もリアクションのコピーを郵送したりと、アナログな手段に頼っていた部分にあります。

PBWが登場したばかりの頃も、メールやネット掲示板が主流で、決して広いコミュニティに訴求できるものではありませんでした。

しかし、スマートフォンが普及し、SNSが台頭したり、YouTubeなどの動画メディアで簡単に動画を配信できるようになったことで、個人の発信力は格段にアップしています。

それらを上手く活用できれば、30年前とは比べものにならないような、大きなコンテンツを生み出せるのではないかと思っております。

それは決して遠くない未来のことだと思いますし、月島さんとともにそういったコンテンツを生み出せるよう、準備を進めて参りたいと思います。



――ありがとうございます。『新クレギオン』に続く今後の展開も楽しみにしております。最後に、『新クレギオン』への参加を検討されている初心者のみなさんに雑賀さんからメッセージをお願いいたします。


雑賀 『クレギオン』の世界はこれまでのインタビューでみなさんがお話してくださったように、等身大の人間が生きているリアリティのある世界です。

だからと言って堅苦しい世界観でもないので、ゲームマスターのマスタリングと、プレイヤーのみなさんの行動で、それこそプレイヤー同士が競い合う展開や、協力し合う展開、シリアスな展開から久潟マスターがお話されていたようなコミカルな展開まで、様々なストーリーが紡がれていく作品です。

みなさんもぜひ等身大の自分、あるいは等身大の自分が生み出したキャラクターになりきって、『新クレギオン』を体感してみてください。

SFや世界設定の構築や架空世界の歴史に興味がある方は、『新クレギオン』を通して『クレギオン』の設定や歴史を掘り起こしてみるのも面白いと思います。その上で、今度はみなさんが、『クレギオン』世界に新たな設定や歴史を付け加えていってください。

30周年を迎えた『クレギオン』ですが、新たな参加者のみなさんとともに、今後も作品世界を広げて参りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。



INTERVIEW / TEXT:斎藤ゆうすけ



注1……『クロストライブ』は2013年~2015年まで運営されていたPBW。運営を 株式会社デジタルハーツが、原作・原案をチーム月島が担当。月島総記氏が執筆した小説版も講談社BOXよりリリースされた。


注2……クリエイティブRPGはフロンティアワークスが運営するPBWの総称。2009年に雑賀寛氏が、プロデューサーとして第1作目となる『蒼空のフロンティア』をプロデュースし、その後も新規タイトルの運営が行われている。『新クレギオン』もフロンティアワークスのクリエイティブRPGとしてリリースされる。